世界の人口が過去最高の80億人を突破する一方、多くの国が極端な少子化に悩んでいます。こうしたなか、「人口変動が家族に与えるインパクト」をテーマとする専門家セッションが5月16日、オンラインで行われました。40人ほどが参加した同プログラムは、UPFがエグゼクティブ・メンバーを務める「家族に関するNGO委員会」(本部・ニューヨーク)が主催したもので、国連「国際家族デー」を記念して企画されました。

はじめに、国連経済社会局(DESA)人口部で少子高齢化担当セクションのチーフを務めるキャロライン・シュミッド博士(=写真左)が、「世界人口80億人」の影響についての分析結果を報告しました。博士は、世界人口はこのまま2050年まで増え続けるとした上で、コンゴ共和国、エチオピア、エジプト、インド、ナイジェリア、パキスタン、フィリピン、タンザニアなど若年人口が増加している8カ国は、豊富な労働力による「人口ボーナス」の恩恵を受けると分析。一方、発展途上国における若者の増加は、教育、医療、雇用に対する急激な需要増加を誘発し、もしそれが満たされなければ、犯罪や社会不安につながりかねないとの懸念を示しました。

また、シュミッド博士は、現在人口が増加している国であっても、今後、緩やかではあるものの着実に人口減少に直面すると指摘。データを示しながら、ほとんどすべての国が、高い出生率・死亡率から低い出生率・死亡率へと移る「人口統計学的移行期」を迎えていると強調しました。

シュミッド博士はこうした傾向について、より多くの人が健康で長生きし、一家族あたりの子供の数が減ることで、子供一人ひとりにより多くの関心とコストを投入できることは喜ばしいとしつつ、こうした変化は、生産年齢人口の減少に比例して、経済成長への障害や福祉サービスにおける若者世代の負担増につながるリスクについても言及しました。さらに、こうした負担が家計を圧迫し、結果としてほとんどの家庭が希望する数の子供をもうけられていない現状についても指摘しました。

続いて、家族問題研究所(IFS)研究員のライマン・ストーン氏(デモグラフィック・インテリジェンス最高情報責任者、アメリカン・エンタープライズ研究所非常勤研究員=写真左)が、「人口変動に影響を与える家族要因」について発表しました。

ストーン氏は、国連人口基金(UNFPA)や国連開発計画(UNPD)などの豊富なデータに触れながら、シュミッド博士の「人口動態の変遷」についての発表に賛同の意を示しました。同氏はまた、少子化を望んでいるのは一部の国だけで、高所得国でも低所得国でも、ほとんどの国はもっと出生率を上げたいと望んでいると分析。その一例として、女性が希望する数の子供を産んでいないインドについて紹介しました。

インドは一般に人口過剰に苦しんでいると考える人が多いものの、調査では、現在のインドの女性は平均して、希望する子供数より実際に生み育てている数は2人少ないことに言及しました。その上で、ストーン氏は、国連が「リプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する権利)」を推進している以上、多くの女性がより多くの子供を望んでいるという事実を取り上げる必要があると指摘。さらに、より多くの子供を産みたいという女性の願望は、通常国連で耳にするような、より多くの避妊や中絶への容易なアクセスの要求とはまったく異なる問題だと訴えました。

ストーン氏はこうした現状を踏まえた上で、少子化の原因は何かという問題を提起。避妊の受容や技術の向上、結婚の遅れと減少、子育てにかかる費用の増加などをその理由にあげました。さらに、特に女性は在宅で子供を育てるために仕事を離れることで雇用機会を失うリスクがある点に触れ、結婚している女性の方が未婚の女性よりも子供を多く産むため、結婚の減少も大きな要因となっていると指摘しました。ストーン氏は、国連に対し、住宅、減税、結婚を推奨などの政策について研究し、出生促進のための取り組みの必要性を訴えました。